
結論から言います:「金利1%未満なら運用優先、1%超なら繰り上げ返済を検討」
退職が近づくと「残債をボーナスで一気に消してしまいたい」という気持ちはよくわかります。ただ、その直感が正しいとは限りません。金利水準・住宅ローン控除の残存・手元流動性の3つで判断が変わります。

繰り上げ返済が「得」に見えて実は損になるケースとは?
住宅ローン控除(正式名:住宅借入金等特別控除)は、年末残債×0.7%が所得税・住民税から還付される制度です。繰り上げ返済で残債を大きく減らすと、その控除額も同時に削れます。
例)残債2,000万円の場合
| 項目 | 繰り上げ前 | 500万円繰り上げ後 |
|---|---|---|
| 年末残債 | 2,000万円 | 1,500万円 |
| 控除額(×0.7%) | 14万円/年 | 10.5万円/年 |
| 差額 | ― | ▲3.5万円/年 |
控除期間が3年残っているなら、繰り上げで10万円超の還付を自ら捨てることになります。

住宅ローン金利と運用利回り、どちらが大きいかで決まる
繰り上げ返済の「効果」は、その金利分の利息が消えること。つまり**「確実に得られる金利分のリターン」**です。
- 変動金利0.5%なら、繰り上げ効果は税引き後0.5%相当
- NISAの成長投資枠でオルカン(全世界株)を積み立てた場合、長期期待リターンは年4〜5%程度(ただし元本保証なし。過去実績であり将来を保証しない)
数字だけ見れば「運用優先」に見えます。ただし60代には「定年後に収入が減る」という変数が加わります。
60代特有のリスク:「返済能力の崖」を忘れてはいけない
先日ご相談いただいた60代前半の方(夫婦2人・共働き・関東在住)のケースです。残債1,500万円・金利0.6%・定年まで2年。「全額繰り上げで完済したい」とおっしゃっていました。
シミュレーションしてみると、完済後の手元流動性(すぐ使えるお金)が200万円を切っていました。定年後に給湯器が壊れる、車を替える、親の介護が始まる——そういう「想定外の出費」が60代には集中しやすい。
結論は「半分だけ繰り上げ返済し、残りをNISAへ」。月々の返済額を減らして心理的余裕を確保しつつ、運用益も取りに行く折衷策です。
判断フローチャート(3つの問い)
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住宅ローン控除の残存期間はあるか? → ある場合は繰り上げ返済を急がない
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金利は1%を超えているか? → 超えているなら繰り上げ効果が大きい。超えていないなら運用と競争させる
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完済後の流動性資産は生活費1年分以上残るか? → 残らないなら繰り上げは待つ
この3問すべてで「繰り上げOK」が出て初めて、一気に返済を検討してください。
よくある質問
Q. 退職金で一括返済すると節税になりますか? A. 一括返済自体に節税効果はありません。退職金の「退職所得控除」とは別の話です。退職金の使い道と住宅ローンは切り離して考えましょう。
Q. 変動金利が上がったら繰り上げを急ぐべきですか? A. 金利が1%を超えてきたタイミングで再試算するのが合理的です。「上がったから急ぐ」ではなく「水準で判断」が正解です。
Q. 繰り上げ返済は「期間短縮型」と「返済額軽減型」どちらが得ですか? A. 利息削減効果は期間短縮型が大きい。ただし60代で「月々の負担を減らして現金を手元に残す」なら返済額軽減型が安心です。目的で選んでください。
Q. NISAの成長投資枠に一括で入れた方がいいですか? A. 年間上限は240万円です(2024年制度)。残債が多ければNISA枠と繰り上げ返済に分散するのが現実的です。

