
「念のため付けておこう」——その一言が220万円を溶かす
家を買う日、銀行の担当者からこう言われる。「がん団信、つけておきますか?安心ですよ」。共働きの奥さんが隣でうなずきかけた瞬間、私は止める。コストを計算してから決めてください、と。

がん団信とは何か?金利上乗せで何が起きるか
通常の団信は「死亡・高度障害でローンが消える」保険。がん団信はそこに「がんと診断されただけでローン残債がゼロになる」特約を上乗せしたものだ。聞こえはいい。だが現実は金利に+0.1〜0.3%が35年間乗り続ける。
| 借入額 | 上乗せ金利 | 35年の追加負担(概算) |
|---|---|---|
| 3,000万円 | +0.1% | 約55万円 |
| 3,000万円 | +0.2% | 約110万円 |
| 4,000万円 | +0.3% | 約220万円 |
※金利・返済条件により変動します。あくまで目安です。
保険料を毎月払い続けているのと同じ。しかも途中解約はほぼ不可能だ。

共働きに「不要」と断言できる3つの理由
① 収入が1本残る
がんになっても、パートナーの収入でローン返済を続けられる家庭が大半だ。片働き世帯とはリスクの構造が根本的に違う。がん団信が輝くのは、1本の収入が消えた瞬間にローンも払えなくなる世帯に限られる。
② 就業不能保険で代替できる
「働けない期間の収入補填」なら就業不能保険の方が設計しやすい。月1〜2万円の保険料で、ローン以外の生活費・教育費もまとめてカバーできる。がん団信は「住宅ローン専用の保障」にしかならないのと大きな差がある。
③ 高額療養費制度が存在する
公的医療保険の高額療養費制度により、がん治療の自己負担額には月額上限が設けられる。収入に応じた上限額が適用されるため、治療費で家計が一気に崩壊するケースは思いのほか少ない。「がん=破産」のイメージは、公的制度を知らない人のものだ。
それでも「付ける合理性がある」ケースは存在する
先日ご相談に来られた30代のご夫婦。夫が個人事業主で傷病手当金(会社員が病気休業中に受け取れる給付)が使えず、かつ妻の収入だけではローン返済が月3万円ほど不足するという試算が出た。このケースでは夫側のローンにがん団信を付けることに合理性ありと判断した。
「公的保障が薄い」「一方の収入が著しく少ない」——この2条件が重なるときだけ、天秤が傾く。
判断フロー:1分で自分の答えを出す
- 双方が会社員かつ収入差が小さい → がん団信は不要なケースが大半
- 一方が自営・フリーランスで公的保障が薄い → 付ける合理性が出てくる
- 片方の収入だけではローン返済が回らない → まず家計設計の見直しを最優先
まとめ:「なんとなく安心」の値段は最大220万円
がん団信は悪い商品ではない。ただ、共働き夫婦が「念のため」で選ぶには重すぎるコストだ。がんリスクへの備えは、就業不能保険+高額療養費制度の組み合わせで、より低コストかつ広範に設計できることが多い。安心を買う前に、その安心の値段を計算してほしい。
よくある質問
Q. 金利上乗せなしでがん団信を付けられる商品はある?
A. 一部のネット銀行でがん保障込みの金利を設定している商品があります。ただしその場合も基準金利自体が高めに設定されているケースがほとんどで、総支払額で比べると実質コストは変わらないことが多い。必ず総支払額ベースで比較してください。
Q. ペアローンの場合はどう考える?
A. ペアローンでは各自が個別に団信へ加入します。「家族歴でがんリスクが高い」など個別事情があれば部分的に検討の余地はありますが、基本的な判断軸は変わりません。それぞれのローン残高と収入バランスで考えるのが原則です。
Q. 途中でがん団信だけをやめられる?
A. 基本的に、借り換えをしない限り途中でがん保障特約だけを外すことはできません。コスト負担が気になり始めたら「借り換えのタイミング」をプラン見直しの機会として使ってください。
Q. 就業不能保険とがん団信、優先すべきはどちら?
A. 共働き夫婦なら就業不能保険を先に検討するのが合理的です。住宅ローン以外の生活費・教育費もカバーできるため、保障の汎用性がまったく違います。がん団信はあくまで「住宅ローン専用」の保障に過ぎません。



