
節税を頑張るほど、家が買えなくなる
「役員報酬は月60万円あるのに、なぜ落ちるんですか」——そう言って相談に来る経営者は、毎年後を絶ちません。答えは単純です。銀行が見ているのは「額面」ではなく「課税所得」だから。節税でせっせと所得を圧縮した結果、審査上は「年収200万円台の人」として処理されてしまう。よかれと思ってやった節税が、住宅購入の最大の障壁になっているのです。

なぜ経営者は審査で不利なのか?「3つの構造的な問題」
銀行の審査モデルは「毎月同じ給与が振り込まれる会社員」を前提に設計されています。経営者には以下の3つのハンデが重なります。
- 役員報酬は業績次第で変動するとみなされる(額面が高くても評価が低い)
- 経費をフル活用すると課税所得が激減する(審査上の年収がそのまま下がる)
- 会社の決算書まで審査対象になる(赤字が1期でもあれば即減点)
会社員なら源泉徴収票1枚で済む審査が、経営者には2〜3期分の決算書・法人税申告書・役員報酬明細が必要になります。書類が多いほど、突っ込みどころも増えるわけです。

銀行は何を見ているか?会社員との比較
| 審査項目 | 会社員 | 経営者・役員 |
|---|---|---|
| 収入の根拠書類 | 源泉徴収票 | 源泉徴収票+決算書2〜3期 |
| 控除の扱い | 給与所得控除後 | 同左(赤字繰越は減点) |
| 在籍確認の方法 | 勤務先へ電話 | 登記・決算で本人確認 |
| 不安定とみなす条件 | 転職直後など | 業績変動・赤字・業歴が浅い |
経営者が「審査に通りにくい」のは信用力の問題ではなく、銀行のフォーマットに乗りにくいという構造の問題です。であれば、戦略で補うしかない。
審査を通すための5つの実践策
① 役員報酬は「申し込みの1〜2年前」に引き上げる
銀行は直近2〜3期の平均で判断します。申し込みの直前に上げても手遅れ。住宅購入を検討し始めた時点で、逆算して報酬設計を見直すことが必要です。
② 経費の「使い方」ではなく「タイミング」を選ぶ
節税と審査はトレードオフです。「借入額が大きい年だけ申告所得を一定水準に保つ」という割り切りが、長期的には賢い判断になります。ローンが通らなければ、節税した意味がありません。
③ フラット35を「一時的な通過点」として使う
フラット35(住宅金融支援機構)は民間銀行より審査基準が緩やかで、経営者でも通りやすい傾向があります。金利は固定で計画も立てやすい。「フラット35で借りて、決算を整えてから民間へ借り換える」という2段階戦略は、相談現場で実際に機能している打ち手です。
④ 決算書の「見た目」を税理士と事前に整える
赤字が1期でもあると審査は一気に厳しくなります。それ以上に見落とされがちなのが役員貸付金・仮払金の残高。銀行目線では「会社のお金が経営者個人に流れている」と映り、悪印象につながります。申し込み前に税理士と棚卸しする価値があります。
⑤ 自己資金を厚くしてLTVを下げる
頭金を物件価格の20〜30%以上入れると、担保評価が上がり審査が通りやすくなります。LTV(ローン対価値比率)を下げるのは、収入証明で不利な経営者にとって特に有効な補強策です。
現場事例:3行に断られた経営者が通った方法
40代の法人経営者から相談を受けたケースです。役員報酬は月60万円でしたが、節税の結果、課税所得は年200万円台。3つの民間銀行に断られた状態での相談でした。
打った手は2つ。フラット35+自己資金30%投入で審査を通し、翌期に役員報酬の見直しと決算整理を行った上で民間銀行へ借り換え、金利も改善しました。「審査に通るローンで買い、条件を整えてから有利なローンに切り替える」——この順番の逆転発想が、経営者の住宅取得には有効です。
よくある質問
Q. 会社員の配偶者と収入合算すれば審査は楽になりますか?
A. 配偶者が正社員であれば収入合算やペアローンは有効な手段です。ただし育休・退職リスクも加味した上で、無理のない借入額を設計することが前提になります。
Q. 業歴1年未満でも借りられますか?
A. 多くの民間銀行は業歴2〜3年以上を条件とします。フラット35は業歴の制限が比較的緩いため、開業初期の現実的な選択肢はフラット35です。
Q. 役員報酬ゼロで配当収入だけの場合はどうなりますか?
A. 配当収入は「安定した継続収入」とみなされにくく、審査は非常に厳しくなります。審査を意識するなら、役員報酬として一定額を確保しておくことが基本です。
Q. 税理士に相談すべきですか?FPに相談すべきですか?
A. 決算書の整理・経費の組み方は税理士の領域、ローン戦略と金融機関の選定はFPの領域です。この2つを横断して見られる専門家に相談するのが、最も無駄のない動き方です。



