
「返済額、変わってないから大丈夫です」──その一言が怖い
先日、共働きの30代ご夫婦が相談に来られた。 ローンの話題になると、奥様がそう言って笑った。 残高明細を一緒に開いた瞬間、笑顔が固まった。
元金の減りがほぼ止まっていた。利息が先に食い尽くしていたのだ。

変動金利はここまで上がった
日銀は2024年から政策金利を段階的に引き上げている。 住宅ローンの変動金利は短期プライムレートに連動するため、この上昇はほぼ直撃する。
| 時期 | 政策金利(無担保コール翌日物) |
|---|---|
| 2024年3月以前 | −0.1%(マイナス金利) |
| 2024年3月 | 0〜0.1%に引き上げ |
| 2024年7月 | 0.25%に引き上げ |
| 2025年1月 | 0.5%に引き上げ |
| 2026年(現在) | 市場では0.75〜1.0%水準を織り込み中 |
ゼロ金利時代に「0.4%で3,000万円借りた」人が一番影響を受けやすい。

「返済額が変わらない」のは制度のせい、安全とは別の話
変動金利には2つの緩衝ルールがある。
- 5年ルール:金利が動いても、返済額の見直しは5年に1度だけ。
- 125%ルール:見直し時も、返済額の上限は従来の1.25倍まで。
これが「安心感」を生む。だがこれは支払いを先送りする仕組みであって、利息を免除する仕組みではない。 金利が上がれば毎月の返済額のうち利息の割合が増え、元金返済が後回しになる。 最悪のケースでは返済額が利息を下回り、**払っても残高が増える「未払い利息」**が発生する。
5年後、いくら増える? 正直に計算した
借入3,000万円・35年返済・当初金利0.4%(元利均等)で試算する。
| 適用金利 | 月返済額(目安) | 当初比増加額 |
|---|---|---|
| 0.4%(当初) | 約77,000円 | — |
| 1.0%(+0.6%) | 約82,000円 | 約+5,000円 |
| 1.5%(+1.1%) | 約87,000円 | 約+10,000円 |
| 2.0%(+1.6%) | 約92,000円 | 約+15,000円 |
5年ルールが機能している間は請求額は変わらない。 しかし5年後の見直し時に一気に上の金額へジャンプする。 その時に家計が耐えられるかどうか、今のうちに試算してほしい。
その夫婦に何をしたか
残高明細を確認すると、元金充当額が当初の半分以下に落ちていた。 5年後の見直しまで2年を切っており、放置すれば月1万円超の増額が確定的な局面だった。
やったことは3つだ。
- NISAへの積立額を一時的に抑え、繰り上げ返済に回した(残高を減らして利息を圧縮)。
- 緊急資金を返済額の6か月分以上に積み上げた(繰り上げより先にバッファを確保)。
- 固定への借り換えコストを試算し、今回は見送った(残年数と金利差が合わなかった)。
「固定に変えれば安心」は短絡的だ。諸費用と金利差を試算してからでないと判断できない。
今日やるべき確認は3つだけ
① 残高明細を開いて「元金充当額」を見る 当初と比べて利息が増え、元金が減っていないか確認する。銀行アプリで見られることが多い。
② 「5年ルールの次の見直し時期」を把握する いつ返済額が上がりうるか。2年後か5年後かで対策のタイミングが変わる。
③ 手元流動性が返済額6か月分以上あるか確認する 繰り上げ返済はその後だ。緊急資金なしで元金を減らすのは綱渡りになる。
変動金利が「怖いか怖くないか」は金利水準だけで決まらない。 残高・返済余力・次の見直し時期の3点セットで判断するものだ。
よくある質問
Q. 今からでも固定に借り換えできますか?
A. できます。ただし固定金利はすでに上昇しており、借り換え時の諸費用(保証料・登記費用等)も発生します。残年数・残高・現在との金利差を数字で比べてから動いてください。「とりあえず固定」は解決にならないことが多いです。
Q. 5年ルールがあれば5年間は安全ですか?
A. 返済額は据え置かれますが、安全ではありません。利息充当が増えて元金の減りが止まります。極端な場合は未払い利息が発生し、残高が増え続けます。「請求額が変わらない」と「損が出ていない」は別の話です。
Q. 繰り上げ返済とNISA、どちらを先にすべきですか?
A. 緊急資金の確保が最優先です。その上で、変動金利が1%を超えてきた局面では繰り上げ返済の「確実なリターン」と投資の期待リターンの差が縮まります。適用金利と投資期間を比べながら配分を決めるのが基本です。
Q. 金利が上がったとき銀行から連絡はありますか?
A. 適用金利の変更は通知されます。ただし返済額の変更(5年ごとの見直し)とは別タイミングです。「金利は上がっているが返済額は変わっていない」期間が存在するため、通知を受け取っても自分で明細を読み解く必要があります。

